1.「鹿肉(ジビエ)は美味しい」→身近にある食料資源。しかも、美味しい。(大切なことなので2回)
「日本でシカを食材としないのは調理法が知られていないからだと思いました」
高知市内にある“飛行機の乗っても食べに行きたい”ジビエ料理専門店「ヌックスキッチン」の西村直子さんが『料理王国』の「ジビエ特集」で語っていた一文です。日本では鹿肉・猪肉(ジビエ)は臭い、硬いと敬遠されがち。しかし、しっかりと処理されたジビエ料理は美味しいのだと、西村さんは言います。
「ジビエ」は天然の野生鳥獣のことを表す言葉(フランス語)です。ヨーロッパではジビエは貴族の伝統料理として古くから食べられていました。昨今では日本でも「ジビエ」という言葉が広まり、ご存じの方も多いかと思います。“仏教の国である日本”は肉食は明治以降に一般的になったと言われますが、それ以前も山間地では狩猟が行われ、猪汁や熊汁などが食べられてきました。日本の伝統芸能である狂言にも狸汁がテーマに用いられており、日本でも古くから野生鳥獣を食す文化があったことを表しています。(そもそも、人はもともと狩猟を行い。日本でも仏教伝来以前から狩猟が行われていました)
「ジビエ」というとシカやイノシシばかりが取り上げられがちですが、本来は野生鳥獣のことを表す言葉であり、クマはもちろん、ウサギやカモなども食べられます。もっとも、牛や豚に近く、手に入りやすく、調理しやすく、食べやすいということで、シカやイノシシがジビエ食材として広く活用されています。
しかし、多くの人が日常的に口にしている食肉は牛・豚・鶏です。ほとんどの家庭の食卓には家畜として飼育されたものがのぼり、野生鳥獣の肉はありません。
その一方で、僕らが暮らす日本の多くは山林であり、僕が暮らす岐阜県の白川町は面積の9割が山林です。岐阜県をみても高知県に次いで全国2位の約8割の山林面積を誇ります。そこには多くの野生鳥獣が生息しており、シカやイノシシ、クマなどは有害鳥獣として駆除の対象になっています。また、駆除されたシカの9割以上は山林に埋められるか、焼却“処分”されていると言われています。
そこで、「ジビエ」として狩猟した鹿肉の利活用ができないか?と広く模索されているのです。
ジビエの広がりが期待される一方で「鹿肉はマズい」と言われます。「鹿肉は硬くて臭いがあり口に合わない」というのがその理由とされます。鹿肉には野生動物としてのジビエ臭があり、しかも山林を駆け上っている為か肉が硬い。しかし、適切に処理された鹿肉には臭いはなく、美味しく調理されたジビエ料理は美味しいのです。
2.鹿肉はとても健康に良い食材→牛肉や豚肉よりも身体によい。
シカは自然の山林で生息している動物です。そのため、鹿肉は全般的に脂肪分やコレスチロールが少なく、牛・豚・鶏よりもたんぱく質が多いため消化が早く、健康食として注目されています。
“鹿肉のカロリーは牛肉の4分の1以下、豚肉の半分以下、鉄分は牛肉の7倍、豚肉の10倍以上。鹿肉や魚の赤身がもつ鉄分は「ヘム鉄」といい、人体内にある鉄分と性質が似ているため、体内吸収率が高い。シカのたんぱく質は牛肉のほぼ2倍と高く、脂質は10分の1以下と低い。しかも鹿肉の脂質には脳の働きを活性にしたり、記憶力や学習能力を高めたりすつ働きをもつドコサヘキサエン酸などが豊富にある。栄養や健康的機能からみても鹿肉は食べるべき食品である。”引用:『いけるね!シカ肉おいしいレシピ60』
3.野生動物の増加の推移と被害の現状(岐阜県の例)
いま、日本の山林にはシカやイノシシが増加しており、山林の木を荒らしたり、人里に下りてきて、畑を荒らすため「有害鳥獣」として駆除の対象となっています。
いま、日本の山林にはシカやイノシシが増加しており、山林の木を荒らしたり、人里に下りてきて、畑を荒らすため「有害鳥獣」として駆除の対象となっています。
現状はどうなっているのか?例えば岐阜県の場合「平成25年度農作物鳥獣被害額」は約4億7千万円(対前年比109%)とないます。被害額では全国で17番目(平成24年度)「岐阜県の鳥獣害対策【農林振興課】」
農作物への被害の他にも、列車との衝突事故も頻繁に発生しています。僕も、数年前に長野県のJRのローカル列車に乗車していたときに、列車がシカと衝突して、幸い列車の乗客にはけがはなく、列車も問題なく運行できたのですが、乗り継ぎの駅でひどく待たされたことがあります。シカが増え続ければ、列車以外にも乗用車と衝突することも増えてくることが考えられます。
4.なぜ、鹿は増えたのか?
かつては、日本には二ホンオオカミというオオカミが生息し、彼らがシカを食していた。明治頃、二ホンオオカミは日本から絶滅した。しかし、当時は山でシカやイノシシ、クマなどを狩猟する猟師が多くいた、そのため、シカは個体を増加させることはなかった。それが、現在では猟師の数は減少している。
1930年~40年代 シカは保護対象だった。ハンターが多くシカの個体が増える間がなかった。1970年代に50万人いたハンターは2000年代に20万人を割り込み、2010年には10万人台となった。
ハンターの減少要因は人口減少、高齢化、動物愛護思想の高まりなど。
ハンターが減ったことに加え、降雪量の減少が冬季のシカの大量死がなくなった。人工林の増加により、初期の段階では、林床がきれいに整備されそこに芽を出した草木が野生動物のエサとなっていたが、戦後に植樹された木々がある程度成長してしまったために、硬くなり、人がつくる作物を食べるようになった。
『ジビエを食べれば「害獣」はへるのか』和田一雄より
5.有害駆除されている鹿の現状→9割以上は捨てられる(埋められる)
天敵のいない日本のシカは増え放題となり、食べられるものは食べつくされ、畑、庭を荒らすか、さもなければ生きている木の皮をはがし始める食べられるものがなくなれば餓死するが、シカが食べられる植物だけを食べつくすと、食べられない有害な植物がはびりこびだす心配が出てくる。天敵のいない日本のシカの個体数管理をするのは人間の義務である。それがシカのためにも環境のためにもなる。引用:『鹿肉食のすすめ』C・Wニコル
有害鳥獣として駆除された多くのシカはその後、山林に埋められています。有害駆除の対象となる動物には市町村役場から報奨金が出されます。
せっかく捕らえても、山奥で狩猟された死んだシカを運び出すのは重労働であり、たくさん持ち帰ったところで、鹿肉は売れないし、食べられない。そのため、捕らえられたシカの9割以上は山に捨てられる(埋められる)か焼却処分されていると言われています。
せっかく捕らえても、山奥で狩猟された死んだシカを運び出すのは重労働であり、たくさん持ち帰ったところで、鹿肉は売れないし、食べられない。そのため、捕らえられたシカの9割以上は山に捨てられる(埋められる)か焼却処分されていると言われています。
“進まない捕獲→ぼたん鍋として価値のある、猪肉に比べ、鹿肉の需要はせいぜい犬のエサ。経済的には有害鳥獣の駆除での報奨金のみで、ほとんど経済価値がないとされている。”引用:『いけるね!シカ肉おいしいレシピ60』
また、ジビエとして大きな壁となるのは、飲食店で販売するためには「食肉加工施設」からの仕入れでなければならないということです。つまり、猟師さんが庭先で解体したものをお店で販売してはいけないということです。
・業として食用とする野生鳥獣の食肉加工を行う場合には、食品衛生法の規制対象となります。具体的には、基準に適合する食肉処理施設を設けること、処理加工を行うために必要な営業許可を受けること、基準にしたがって衛生的に処理加工を行うことが必要となります。・また、野生鳥獣の利活用の盛んな一部の自治体では、処理加工において守るべき衛生管理の方法などを示したガイドラインやマニュアルを作成しています。野生鳥獣肉の処理加工を始める際には、各自治体にご相談ください【厚生労働省WEBサイトより】
岐阜県にもガイドラインがあります。
6.ジビエとして食べるとシカは減るのか?
「シカが増えすぎたので食べて解決しよう」という動きがある一方で、
鹿肉や猪肉の消費増可で駆除数増加は可能なのか?
肉をたくさん食べてもらうには、いかに美味しく、安価に提供できるか。ハンターにいい代価を支払うことができるのか。
鹿肉には独特の匂いがあり、硬い。このままでは、豚や牛に対抗できない。鹿肉の消費に流通が必要。
参考:『ジビエを食べれば「害獣」はへるのか』和田一雄より
と、意見もあります。ほとんど埋められている鹿肉の消費が少し増えたぐらいでは、鹿の数が減るわけではない。不安定な供給状況を流通を改善しなければ全体的な解決には結びつかないということです。
7.元来、日本人は鹿肉を食べてきた
日本列島に人が住み着いたのは、今から20万年前から1万3000年前の旧石器時代。このころから肉食は始まっていたと推測されます。狩猟時代の縄文時代も、稲作の弥生時代も当然、狩猟は行われていたことでしょう。
“仏教徒である日本人は鹿肉を食べない”と言われることもありますが、仏教には本来、食べ物のタブーはないそうです。しかし、生き物を殺したり、傷つけたりすることが恐れられため、大和朝廷の末期、天武天皇の代(675年)に「殺生禁断令」という「肉食禁止令」が出されました。しかし、肉食禁止令では、シカ、イノシシ、ウサギ、キジ、カモ、山鳥、鳥類や魚は禁断の対象になっておらず、あらゆるもの肉食が禁止ではありませんでした。
江戸時代も動物を殺すことは禁止されていましたが、一部の庶民にはシカ、イノシシ、野ウサギは盛んに食べられていたらしく、料理本も出されていたそうです。また、武士と貴族の間でも「薬としての利用」として「薬食い」の名のもとに、あくまでも薬用食として密かに食されていました。(肉を食べることで体温が温まり、体力回復のために薬の代わりに肉を食べる風習があったからです。実際に栄養学では、たんぱく質を摂取すると、体内では比較的短時間でエネルギーが発生することが明らかになっています。) 日本でも貴族の趣味には「鷹狩り」があり、その獲物の野鳥や野ウサギが主な肉として食されていました。ウサギは1羽、2羽と数えられるのは、飛び跳ねるのは鳥だとみなされていたからです。
日本には昔からシカを「もみじ」と呼ぶ文化がありますが、薬としてぼたん(イノシシ肉)、もみじ(シカ肉)、さくら(馬肉)を主に鍋料理の材料として利用していました。江戸時代中期から後期にかけて江戸で「山くじら」の看板を出してイノシシ肉を食べさせる店が現れました。
肉食が解禁になったのは1872年(明治5年)。それまで薬として食べられていたのが、堂々と食べられるようになりました。明治時代になり「牛肉を食べないのは文明人ではない」とまで言われたそうです。ながらく、1200年間「肉食禁止令」によってみな肉を食べていなかったので、おそるおそる食べていたが、牛肉を味噌味仕立ての鍋にした牡丹鍋のような牛鍋が庶民にウケて人気となりました。
参考:『47都道府県肉食文化百科』より
日本列島に人が住み着いたのは、今から20万年前から1万3000年前の旧石器時代。このころから肉食は始まっていたと推測されます。狩猟時代の縄文時代も、稲作の弥生時代も当然、狩猟は行われていたことでしょう。
“仏教徒である日本人は鹿肉を食べない”と言われることもありますが、仏教には本来、食べ物のタブーはないそうです。しかし、生き物を殺したり、傷つけたりすることが恐れられため、大和朝廷の末期、天武天皇の代(675年)に「殺生禁断令」という「肉食禁止令」が出されました。しかし、肉食禁止令では、シカ、イノシシ、ウサギ、キジ、カモ、山鳥、鳥類や魚は禁断の対象になっておらず、あらゆるもの肉食が禁止ではありませんでした。
江戸時代も動物を殺すことは禁止されていましたが、一部の庶民にはシカ、イノシシ、野ウサギは盛んに食べられていたらしく、料理本も出されていたそうです。また、武士と貴族の間でも「薬としての利用」として「薬食い」の名のもとに、あくまでも薬用食として密かに食されていました。(肉を食べることで体温が温まり、体力回復のために薬の代わりに肉を食べる風習があったからです。実際に栄養学では、たんぱく質を摂取すると、体内では比較的短時間でエネルギーが発生することが明らかになっています。) 日本でも貴族の趣味には「鷹狩り」があり、その獲物の野鳥や野ウサギが主な肉として食されていました。ウサギは1羽、2羽と数えられるのは、飛び跳ねるのは鳥だとみなされていたからです。
日本には昔からシカを「もみじ」と呼ぶ文化がありますが、薬としてぼたん(イノシシ肉)、もみじ(シカ肉)、さくら(馬肉)を主に鍋料理の材料として利用していました。江戸時代中期から後期にかけて江戸で「山くじら」の看板を出してイノシシ肉を食べさせる店が現れました。
肉食が解禁になったのは1872年(明治5年)。それまで薬として食べられていたのが、堂々と食べられるようになりました。明治時代になり「牛肉を食べないのは文明人ではない」とまで言われたそうです。ながらく、1200年間「肉食禁止令」によってみな肉を食べていなかったので、おそるおそる食べていたが、牛肉を味噌味仕立ての鍋にした牡丹鍋のような牛鍋が庶民にウケて人気となりました。
参考:『47都道府県肉食文化百科』より
「イノシシ」は古くから日本で食べられていた。「日本書紀」(720年)によれば「山クジラ」「ぼたん」の名で天武天皇の肉食禁止令の対象外になっている。良質のたんぱく質や必須アミノ酸も多く含み、低カロリーの食肉である。イノシシ肉は疲労回復に良いビタミンB群を含んでいる。
「シカ」は滋養強壮、スタミナ食として古くから珍重されている。縄文時代の主な狩猟の対象はシカとイノシシであった。シカは肉だけではなく、内臓、脳、脊髄も食用にし、皮は衣として利用された。弥生時代頃から、シカを「霊獣」として扱う傾向がみられるようになった。日本の神話や伝承では、豊作を願って水田にシカの死体や血を捧げる儀式が行われた。神の使いである神鹿(しんろく)として最も有名のなのか奈良の春日大社・興福寺のシカである。シカは一夫多妻で繁殖力が強い。鹿肉は脂肪が少なく鉄分とたんぱく質の多い肉として注目されている。
「シカ」の語源は肉(食肉)を意味する「シ」(シシ)と毛皮を意味する「カ」が合わさったものと考えられている。古代人はシカの肉は食用品や皮は衣料品の重要な供給源としていた。
“もみじ”は、鹿肉の隠語に使われる。「古今集」に詠まれた「奥山に紅葉ふみわけ鳴く鹿の」に由来されるといわれる。
8.んでまあ、どうするのか?→美味しく食べる機会を半径5メートルから広げていく。
シカが増えすぎて困っているからなんとかしたい!よりも、「美味しいから食べる」というのを半径5メートルぐらいから広めていけたらいいな。いきなり、シカの猟銃免許をとってシカ肉やイノシシ肉しか食べないとかではなくて、シカ肉やイノシシ肉を美味しくいただけるお店に行ってみたり、それをブログで紹介してみたり、シカ肉が売られていたらちょっと高くても買ってみたり、ダッチオーブンなどで「ジビエを食べる」取り組みをしてみたり。そういうところから、やっていけたらいいなと思うのです。
“日本でシカを食材としないのは調理法が知られていないから”とヌックスキッチンの西村さんが言われているように、もっと美味しく食べる方法が一般的に広まれば、シカ肉を食べる人も機会も増える。シカをはじめイノシシなどももっと食べる選択肢と機会があってもいい。もっと身近に。高知に行かなくても食べられる。東京のジビエの高級料理店じゃなくても、気軽に食べる機会は増えないもか。
僕が働いている美濃白川クオーレの里でも、ジビエの取り組みがちょっとずつ進行しているので、ジビエを食べる機会を増やしていければと思います。
TPPがはじまれば、いままで以上に海外から安い食肉が輸入されます。アメリカから輸入された牛肉やブラジルや中国、東南アジアから輸入された鶏肉を食する機会が増えてくることが予想される一方で、日本の山林を駆け巡り成長したシカやイノシシを食べるという選択肢が広まることは自然にも地域にも僕たちにとっても良いことのはずです。半径5メートルから、シカ肉、イノシシ肉をいただく機会と選択肢を増やしていきたいと思います。
ヌックスキッチンにて(2015年1月)
ヌックスキッチンにて(2015年1月)
ヌックスキッチンにて(2015年1月)
僕が働いている美濃白川クオーレの里でも、ジビエの取り組みがちょっとずつ進行しているので、ジビエを食べる機会を増やしていければと思います。
TPPがはじまれば、いままで以上に海外から安い食肉が輸入されます。アメリカから輸入された牛肉やブラジルや中国、東南アジアから輸入された鶏肉を食する機会が増えてくることが予想される一方で、日本の山林を駆け巡り成長したシカやイノシシを食べるという選択肢が広まることは自然にも地域にも僕たちにとっても良いことのはずです。半径5メートルから、シカ肉、イノシシ肉をいただく機会と選択肢を増やしていきたいと思います。
ヌックスキッチンにて(2015年1月)
ヌックスキッチンにて(2015年1月)
ヌックスキッチンにて(2015年1月)
おまけ