人間の脳はデジタル社会に対応していない。
コロナ危機でスマホが外界とのライフラインになった。現在の大人は1日4時間をスマホに費やし、10代の若者は4〜5時間。この10年の行動様式は人類史上最速した。しかし、人間が地球上に現れてから99.9%の時間は狩猟と採集をして暮らしてきた。私たちの脳は今でも「サバンナ」の生活様式に最適化されている。生物学的に見ると脳はまだサバンナで暮らしている。
なぜ、こんなにも激しくウイルスに反応するのか?
ウイルスが心配でたまらないなら、ではなぜ、癌や心臓発作についてはそれほど心配でないのか?それは歴史的な視野で見ると99.9%の時間、人の命を奪ってきたのは癌や心臓発作ではないからだ。地球上に現れてから99.9%の時間、飢餓や殺人、干ばつや感染症で死んできた。人間の身体や脳は癌や心臓発作から身を守るためにできていない。飢餓や干ばつ、感染症から身を守れるように進化してきた。生き延びることを考えたとき、飢餓はとてつもなく恐ろしい脅威。人間はカロリーを強く欲するように進化した。運よくカロリーの高い果実を見つけたら「すかさず食べろ」祖先はそんな衝動に突き動かされてきた。
新型コロナウイルスと人間の脳
人間の身体は大勢が感染症で亡くなるという現実に基づいて進化した。例えば素晴らしい免疫システムを発達させたのもそのひとつ。感染を回避する行動も身につけた。ウイルスや細菌が身体に入らないように予防するのは、入ってしまってから対処するのと同じぐらい重要だ。相手を見ただけで病気だと察知する能力。感染した人の情報を欲する衝動も持っている。誰と距離を置けばいいか。その情報は命に関わるほど重要だ。だからニュース速報を見るのをやめられない。コロナ危機の間、テレビやパソコン、スマホから1日中情報が入ってきた。世界の隅々から感染者数や死者数の報告が届いた。その結果、多くの人が途方も無いストレスを感じるようになった。
時間の無駄だと分かっていてもスマホを手放すことができない
手が勝手にスマホに向かう。いい加減の設定のパソコンがハッキングされやすいように脳もハッキングされる可能性がある。FacebookやInstagramは脳の報酬系をハッキングするのに成功した。10年で全世界の広告市場を制覇した。広告が売れ、時間を奪われ、さらに技術が向上し、ますます時間をSNSに費やす。別のことをやる時間がなくなる。テクノロジーは人間を助けてくれる。これからも存在し続ける。だが、一長一短である。
シロクマはアザラシに見つからないように突然変異で白くなった。白い熊の方が生き残りやすかった。長い年月をかけて環境に適応してきた。
では、人間はどうか?
10万年前のサバンナ。甘い果実を1つ食べて満足する女性と“全部食べてしまいたい”と思う女性。1つだけ食べた女性が翌日、同じ木にやってきてもすべて食べられている。生き残るのは、食べられるだけ食べて脂肪を蓄えた女性。当時、人口の15~20%は飢餓で亡くなっている。“全部食べてしまいたい”と思う女性は甘い果実の“甘味”を認識する遺伝子に突然変異が起き、甘い果実を食べるとドーパミンという物質が大量に分泌される。ドーパミンは満足感を感じさせ、それをしたいと思わせる物質。消費しきれないカロリーを脂肪として腹部に蓄積することで食べ物が見つからないときに餓死から守る。カロリー欲求は遺伝子のせい。その特性は次の世代に受け継がれた。結果、その世代も生き延びで子を産むことが容易になった。何千年を経て、強いカロリーへの欲求は確実に一般的な性質になった。現代社会で同じことをすると肥満になり病気となる。サバンナで生き延びるためのカロリー欲求が現代社会には適応していない。人類の歴史の99.9%の期間、私たちの生存を維持してきた生物的なメカニズムが突如として益よりも害を引き起こす。ADHDも常に周囲を確認し異常なほど活発で、すぐに気をとられる性格のおかげで危険から生き延びた。
かつての世界と今の根本的な違い
・当時は50~150人程度の集団で暮らしていた。いまでは地球の多くの人口が都市に暮らしている
・当時は常に移動し、住居も簡素だった。今は同じ場所に何年、何十年と住む
・当時は生涯出会う人間の数は200人、多くて1000人程度。出会う相手はだいたい自分と同じような外見だった。今は生きている間に、世界中の数百万人に出会う
・当時、全人口の半数は10歳を迎えずに亡くなった。今は10歳を前に亡くなるのはほんの数%だ
・当時の平均寿命は30歳足らずだった。今の世界の平均寿命は女性75歳、男性70歳
・当時の一般的な死因は飢餓、干ばつ、伝染病、出血多量、誰かに殺される。今、最も多い死因は心臓血管疾患と癌だ
・当時の人口の10~15%は他の人間に殺された。今は殺人、戦争、内戦などの他の人間に起因する死は死亡者全体の1%に満たない
・当時は生き延びるために注意散漫で周囲の危険を常に確認していなければいけなかった。いまでは注意散漫にならないのがよいとされている。
・当時は積極的に身体を動かして食べ物を探さなければ餓死する可能性があった。今は食料を手に入れるために一歩も動く必要はない。注文すれば玄関に届く
感情があるのは生存のための戦略
生まれてから人生最後の吐息の瞬間まで、脳はただ一つの問いに答えようとしている。「今、どうしたらいい?」脳は昨日起きたことなんて少しも気にしていない。すべては現在と未来のために。たった今置かれている状況を判断するために記憶を活用し、感情を元に正しい方向に自分を動かそうとしている。正しい方向とは、生き延び、遺伝子を残そうとする方向。感情には精神を充実させるよりも重要なことがある。他の生物と同様に人間の身体と脳を形成してきた基本ルールは「生き延びで遺伝子を残すこと」。
決断を下すとき、私たちを支配するのは感情
人間のあらゆる活動は「胸のうちの精神状態を変えたい」という欲求で動く。スーパーのお菓子売り場に行けば飢餓を回避するためのアルゴリズムが発動してお菓子を食べたくなる。
ネガティブな感情はポジティブな感情に勝る
人類の歴史で負の感情は脅威に結びつくことが多かった。脅威には即座に対応しなければならない。食べたり飲んだり、眠ったり交尾したりは先延ばしできるが、脅威への対処は先延ばしできない。強いストレスや心配事があるとそれ以外のことは考えられなくなる。私たちの祖先は明るい希望よりも脅威の方がはるかに多い環境に生きていた。負の感情は頻繁に感じる。どの言語でも負の感情は複数存在する。
ストレス、恐怖、うつには役目がある
人間にはストレスシステムのHPA系とよばれる仕組みがある。HPA系とは脳から副腎にストレスホルモンを出せと指示する仕組み。HPA系は人間にも動物にも緊急性の高い脅威に遭遇したときのために発達した。不意にライオンに遭遇するとHPA系が作動し、身体のエネルギーをかき集めて心臓の拍動を強く速くする。ストレスを感じて心拍数があがるのは、ライオンに遭遇したら素早く反応して攻撃にでるか走って逃げるかしなければいけない。つまり「闘争か逃走か」どちらにしてもに筋肉に大量の血液が必要になる。そのためストレスを感じると心拍数が上がる。いまのHPA系にかかわるストレスはライオンに出くわしたほどの集中力は必要ないが長期間継続する。長期にわたってストレスホルモンの量が増えると脳はちゃんと機能しなくなる。常に「闘争か逃走か」の局面に立たされると闘争と逃走以外のことをすべて放棄する。お腹の調子が悪くなる、吐き気がする、不眠、性欲低下がこれにあたる。適度なストレスは頭を明瞭に働かせるが度を過ぎると働かなくなる。
「火災報知機の原則」
脳にある偏桃体(へんとうたい)と呼ばれる部分が周囲の危険に常に目を配り小さなことでも警報を鳴らす。偏桃体がHPA系を発動させる。偏桃体の発動は「火災報知機の原則」と呼ばれる。間違えて鳴らないより、鳴り過ぎた方がいい。用心することにこしたことはない。10歳まで生きられる人が半数の世界では「火災報知の原則」が運命を左右した。偏桃体はヘビやクモ、高い所、狭い空間に刺激される。交通事故での死亡や喫煙での死亡ではなくヘビやクモに作動するのはそれが人類の命を奪ってきたのだから。
適度なストレスは必要
「ストレス」はネガティブにとらえがちだが、人間が機能するにはストレスが必要。短期的なストレスは集中したり思考機能を鋭くする。仕事で大変な1日、1週間があることは問題ない。ストレスは人間が正常に機能するのに必要。HPA系のスイッチを切った実験動物は無気力になり、何をする気も起らず、食べることさえやめる。同じ症状は燃え尽き症候群の人にみられる。激しい疲労でベットから起きれなくなるのはHPA系が長期にわたり激しく作動し故障した結果である。
人前でしゃべる恐怖
ストレスを感じる瞬間。「人前でしゃべるとき」スピーチ恐怖症。なぜ、他人の目が自分に向くと居心地が悪いのか?人間の進化の過程で「共同体から追い出されないこと」が何より重要だった。評価を下され、社会的に見下され、集団から追い出されるとどうなるか?そんな想像が脳のストレスシステムを作動させる。周りの評判が気になるのは遺伝子に組み込まれたこと。プレゼンで失敗しても餓死することはないだろう。しかし、人間が生きてきた世界では集団から追い出されることは死を意味していた。集団に帰属するのは安心感のためではなく生存がかかっていた。独りになったら生き延びれないのだから。
「不安」とは起きるかもしれないという脅威
不安は命を存続させるための機能。不安は非常に不快な感覚で脅威などを体験することで起きる。ストレスシステムが作動する。ストレスは危険に遭遇したときに助けてくれる。なぜストレスを感じるのか?不安は大事な計画を立て集中するのを助ける。「なんとかなるさ」では生き残れない。
積極的に悩みの種を探しているような人もいる。歴史的にはわずかな危険の疑いでもストレスシステムの「火災報知器」が作動してうまくった。現代ではストレスシステムが無駄に作動している。
不安は人間特有。不安を抱えている人は常にストレスシステムのスイッチが入っている。危険が現われたらすぐ対処できるようにエンジン全開。その結果、いまいる場所から離れようとする。精神的に落ち着かない。身体が落ち着かない。疲労感。お腹の不調。吐き気。口の乾き。汗。
うつは現代の防護服。うつの人は人を避け、食欲が減退し、閉じこもり、性欲をなくす。うつの症状は、ストレスフルな時期の後にあとに現れる。
強いストレスがかかるとは、危険がそこら中にあるということ。脳は「感情」を使って身体を操作する。脳は「気分」を使って、危険いっぱいの環境から遠ざけようとする。ひどく気分を落ち込ませ、引きこもらせる。うつは危険や感染症、殺されることから身を守ろうとする脳でおきる。長期にわたるストレスは事前に食べ物の消化や睡眠、機嫌、セックスへの意欲よりも「闘争か逃走か」を優先させる。ストレスの深刻な影響を受けた人はそれまでに何度も警告を受けてる。ストレス関連の苦しみは治療より予防が断然容易。うつのリスクを高める遺伝子が「セロトニン」わざわざうつにしやすくするのは強いものが生き残るとは限らないから
「ドーパミン」の役割
脳内伝達物質ドーパミン。スマホが魅力的になったのはドーパミンの影響である。ドーパミンの役割は「元気にすること」+「何に集中するかを選択する」こと。人間の原動力。お腹が空いてるときに食べ物が出てくるだけでドーパミンの量が増える。増えるのは食べるときではなく食べる選択をさせるとき。「さあ、これに集中しろ」と。満足感は「エンドルフィン」からで「体内のモルヒネ」と呼ばれている。ドーパミンは美味しいものを食べるように仕向けてくるが、美味しいと感じるのはエンドルフィン。
スマホもドーパミンの量を増やす。チャットの通知が届くとスマホを見たい衝動にかられる。スマホは報酬システムの基礎的なメカニズムの数々をダイレクトにハッキングしている。
脳は新しいもの好きで、人間は知識を求める。周囲を深く知ることで人間は生存の可能性を高めた。周囲の環境を理解するほど生き延びられた。人間は新しい情報を探そうとする。この本能の裏にあるのがドーパミン。新しいことを学ぶ脳はドーパミンを放出する。ドーパミンのおかげで人間は詳しく学びたいと思う。脳は新しい情報だけをほしいわけではない。新しい環境や出来事といったニュースもほしがる。人間は新しいもの、未知のものを探しに行きたいという衝動が組み込まれている状態で生まれてくる。「新しい場所に行ってみたい」「新しい人に出会ってみたい」「新しいことを体験してみたい」と欲求する。私たちの祖先は食料や資源が常に不足していた。この欲求が新しい可能性を求めて移動するよう人間を突き動かしてきた。この欲求を現代に当てはめると、脳は基本的に昔のまま。新しいものへの欲求がある。単に新しい場所を見たいだけではない。パソコンやスマホの新しい知識や情報への欲求脳がドーパミンを放出し、クリックが大好きになる。脳の報酬系が作動する。見返りを欲する報酬探索行動と情報を欲する情報探索行動は脳内で密接した関係。
「かもしれない」が大好きな脳。報酬システムを激しく作動させるのは、それに対する「期待」。何かが起こるかもという期待が報酬中枢を搔き立てる。ドーパミンの最重要課題は人間に行動する動機を与えること。
もしかしたらが、スマホを欲する。「たまにしか実がならない木」実があるかは登るしかない。ハズレを引いてもあきらめない人は生き残る可能性が高かった。そのため不確かな結果でドーパミンが急増する。それで生き延びてきた。不確かなものへの偏愛により「ギャンブル依存症」が起きる。長期で見れば損をするが、「次は勝てるハズ」と思うこの原理を利用しているのははゲーム会社やカジノ会社だけではない。チャットやSNSも通知音が鳴るとスマホを手に取りたくなる。
「何か大切な連絡かもしれない」たいていの場合、着信音が聞こえたときの方が、メッセージを読んでいるときよりドーパミンの量が増える。「大事かもしれない」ことに強い欲求を感じ「ちょっと見てみるだけ」とスマホを手に取る。SNSの開発者は人間の報酬システムを研究して脳が不確かな結果を偏愛していること。どの頻度が効果的なのかをわかっている。そのため時間を問わずスマホを見たくなる仕掛けがある。
IT企業トップは子供にスマホを与えない。
スティーブ・ジョブズはiPadをそばに置かないかった。「スクリーンタイム」を厳しく制限していた。スティーブ・ジョブズの10代の子供にはiPadを使っていい時間を厳しく制限していた。ビル・ゲイツは子供が14歳になるまでスマホを持たせなかった。
デジタルなメリーゴーランドにぐるぐる回される。脳は数十年かけて進化したとおりに機能する。チャットの着信のような不確かな結果はドーパミンというご褒美を差し出す。脳は新しい情報を探そうとする。特に犯罪の記事、危険に関する情報を探す。アプリのお知らせは社会とつながっていると実感させてくれる。投稿につく「いいね」にも集中させようとする。生き残るための進化でスマホが脳をハッキングする。
ポケットの中にスマホがあるだけで、脳は無意識のレベルで「スマホを無視すること」に知能の処理能力を使っている。何かを無視することは脳に働くことを強いる能動的な行為である。テーブルの上にスマホがあると気になって仕方ない。スマホ魔力に抗うために脳が全力を尽くしていると他の作業をするための容量が減る。
脳は近道をしたがる。脳は身体の中で最もエネルギーを必要とする。成人で総消費エネルギーの2割。10代なら3割。新生児なら5割。欲しいだけのカロリーが身体に取り込めなかった時代を長く生きていた。脳もエネルギーを節約して効率的に物事を進めようとする。記憶にはエネルギーを使う。パソコンに保存されているデータは覚えられない。探す手順だけ覚えておけばいい。
「グーグル効果」と「データ性健忘」。別の場所に保存されているから脳が自分では覚えようとしない現象。脳は情報そのものよりもどこにあるかを優先する。ある実験で美術館で写真を撮ったグループと撮らなかったグループでは撮らなかった方が美術品を記憶していた。知識はただの暗記ではない。本当の意味で深く学ぶためには集中と熟考の両方が求められる。素早いクリックにあふれた世界ではそれが忘れ去られる危険性がある。
スマホが目の前にあると会話がつまらなく感じる。スマホが魅力的すぎて周囲の会話に関心がなくなる。ある実験で知らないとと会話するときに、スマホを目の前に置いたときと置かないときで調査した。その結果、スマホを置かないほうが会話が楽しかったと言っている。ドーパミンの影響を受けスマホを手に取りたい衝動にかられる。スマホの誘惑を抑制することに集中力を使うため会話が楽しめなくなる。
スマホを強制的に手放した人は、10分でストレスホルモンが分泌される。頻繁に使用している人ほど高くなる。脳が「闘争か逃走」モードになる。1日中、ドーパミンを出させる対象を失うとストレスを感じる。脳は「生存のために必要なものを失った」と感じる。アメリカの調査ではスマホを頻繁に使う人ほどストレスを多く抱えていた。定期的な「デジタルデトックス」が心や身体に良い。ただ、実際にやっている人は30%もいない。スマホと長時間離されるとストレスを強く感じる。特に頻繁に使っている人ほど強く感じる。ストレスによる体調の変化は人それぞれ。ストレスを許容できる“コップ”の大きさによって異なる。
スマホでうつになる?長期的なストレスはうつになる危険性を高める。スマホをよく使う人ほどうつの傾向が強い。スマホはうつの危険因子となっている。スマホは「運動」「人付き合い」「睡眠」などの時間を奪い、うつの危険性を高めている。
では、なぜ眠るのか?日中の脳内にできるたんぱく質のゴミを除去するため。このゴミは1年間で脳と同じ重さの量に匹敵する。長期の睡眠不足は「脳の清掃システム」が阻止され脳卒中や認知症のリスクを高める。睡眠不足でストレスシステムが激しき反応するほか、長期記憶が阻害される。睡眠は「脳の掃除」「健康維持」「情緒の安定」「記憶と学習」に欠かせないこと。
なぜ、寝つきがわるいのか?サバンナでは寝るきに敵に襲われる可能があった。そのためいまでも、安全に寝る環境でなければ寝れない。だから、入眠は段階的にしてこと安眠できる。寝る前にストレスがかかると寝れなくなる。夜、ストレスがかかって寝れないのは脳が寝させないようにしているため。寝付きが悪いのは、進化のとおりに機能しているだけ。
ブルーライトの闇。体内リズムはどのぐらい光を浴びたかによる。身体に眠りにつく時間をしらせるのが「メラトニン」というホルモン。メラトニンは日中、量が減り、夜間に最多になる。夜間に光を浴びるとまだ昼だと思いメラトニン分泌にブレーキがかかる。それは光の種類によっても異なる。「ブルーライト」にはメラトニンを抑制する特殊な効果がある。なぜなら、ブルーライトは晴れ渡った空から降ってくるものだからだ。ブルーライトで脳は昼間だと思い身体を元気にする。寝付く前にスマホやタブレットを使うと身体はメラトニンの分泌をやめる。メラトニンの分泌を2~3時間遅らせてしまう。そして、体内時計を2~3時間巻き戻してしまう。SNSやゲームのドーパミン+ブルーライトで寝つきが悪くなり眠りも浅くなる。さらに寝室にスマホを置いておくだけで睡眠時間が短くなる。電子書籍も同じような効果がある。電子書籍そのものはブルーライトを出さなくてもスマホのようなものだと脳が認識する。電子書籍でもメラトニンの分泌が抑制される。
人の会話の8~9割はゴシップ
人の会話は大概「自分の話か他人の噂話」であり、私たちはゴシップ大好きである。そもそも、ゴシップで人類は生きてきた。人類はもともと50~150人の集団で生きてきた。全員とは関わらなくても知っておく必要はあった。他の人はどんな人なのか?誰と関りがあるのかを知っておくことが有利だった。だからそれを知っておきたいという強い欲求がある。高カロリーの栄養で餓死を防ぐために幸福感を得たように、他人の情報を知ったり広めたりする噂話をすることで満足感を得てきた。人類を生き延びさせたのは「食べ物」と「ゴシップ」だった。
人間の脳は悪いうわさが大好き。噂話は誰かの情報を得るだけではない。反社会的な行動や、ちゃっかりタダ乗りするのを防ぐ。噂話好きな人は健全な集団づくりに貢献しているとも言えるかもしれない。とりわけ人間は「悪い噂」が大好き。上司の仕事のできる話より失敗の方が興味をそそる。悪い噂を絆を強めるのだ。2人が第3者のことを話すとき内容が悪いことであるほうが仲間意識が強くなる。なぜ悪い情報を偏愛するのかといえば、悪い噂の方が生き延びるために必要だったからである。誰を信用して、誰が危ないのかを判断するために必要だった。人口の1~2割が他の人間に殺されていた世界では、誰が誰に恨みを持っていて、誰に気を付けた方がいいかが、食べ物がどころにあるか同様に重要だったのだ。そして、争いごとには特に関心の的になる。
ゆりかごから墓場までの社交性。噂話を通じて互いに目を配るのは敵から身を守るためだけではない。人間には本質的に社交性がある。お互いに協力して生き延びてきた。社交的な人ほど長生きする傾向がある。反対に孤独だと病気になり早死にする危険性がある。そもそも人は生まれたときから社交性を持っている。人をみると見つめる機能が備わっているのだ。そんな、うまれつきの社交的な仕組みを利用したのがSNSである。
Facebookの成功
Facebookは地球上の3分の1の人が利用している。人間の持つ「周りの人のことを知っておきたい」という欲求と「自分のことを話したい」という欲求にこたえている。人は自分のことを話すを幸せになる。それは
周りの人との絆を深め他者と協力して何かを得ようとする可能性を高めるためであり、周りが自分をどう思っているか知ることができ、自分の行動を改めることができるからである。自分のことを話て称賛されると報酬中枢が活性化してSNSでも積極的になる。
SNSを使うほど孤独になる。リアルに人に会うと幸せになるが、SNSのつながりは孤独を体感している。ある調査ではFacebookに時間を使う人ほど幸福感が減っていた。Facebookで不幸になるのは「他人がどれだけ幸せか」の情報を浴びているからだと考えられる。SNSでの幸福は自分がヒエラルキーのどこに位置するかが重要だから、どこまでいっても上位にはなれない。
脳内物質の「セロトニン」。「セロトニン」は「心の平安」「バランス」「精神力」に影響すると言われていた。加えて「集団の中の地位にも影響する」ことがわかっている。サバンナのボス猿は他の猿よりセロトニンが2倍多い。ボス猿の地位を失うとするとセロトニンが減少する。セロトニンが減少すると内向的になる。
人間でも長期のストレスを受けると脳は気分を落ち込ませる。危険がいっぱいな世界から逃れようとする。自分のいた地位から落とされると脳は逃げ出そうとして地位を奪ったものから襲われないようにする。脳は感情を介して身体をコントロールしようとする。その結果、精神状態が悪くなり他人から距離を取ろうとするのだ。うつ症状の2パターンあるのが「職場や人間関係の長期的なストレス」と「社会的な地位を失ったことに起因(クビになる、パートナーに捨てられる)」ことだ。
デジタルな嫉妬。人間も猿も、はっきりとした上下関係がある。ヒエラルキーの自分の居場所を確立することが重要で、その居場所が気分にも大きく影響する。セロトニンはヒエラルキーにおける地位と幸福感をつなぐ生物学的な橋になる。上の地位から降りることで精神的にやられる。他人と競争して負ける、特に地位が下がると人は不安になり心の健康を損なってしまう。しかし、現代は競争ばかりしている。スポーツで競う、数学で点数を競う、FacebookやInstagramでも他人と競っている。人は昔から競っていたが、それは多くても数十人単位(20人、30人)だが、いまはSNSで世界中の人たちと競っている。結果、SNSを通じて自信をなくしている。常に自分より優秀な人と比べてしまっている。Facebookは表面的には人間のソーシャルコンタクトへの本質的な欲求を満たしてくれる貴重な場である。しかし、心の健康を増進するどころか悪化させていると言える。頻繁にFacebookを利用する人でも影響がない人はいる。
それでも、SNSで健康が損なわれる危険がある。特に、精神状態が「悪くなる使い方」がある。それが、他人の写真を見るだけで自分の写真をアップしないし議論にも参加しない消極的ユーザーはである。積極的なユーザーよりも精神状態が悪くなりやすい。積極的なユーザーは画像をアップして個々のユーザーとコミュニケーションをとっているが、実際にFacebookで積極的なコミュニケーションをとっているのは9%しかいない。ほとんどの人は投稿を次から次へとみているだけで、ソーシャルメディアを社交の場としてではなく皆が何をしているのかを知るための場所になっている。リアルの場で他の人に支えられている人はSNSで社交生活を引き立てる手段として利用しているそうした人たちは良い影響を受ける。対して社交生活の代わりにSNSを利用する人たちは精神状態を悪くする。最初から精神状態が悪く自信もない人はSNSを使いすぎるともっと精神状態が悪くなる。自己評価が低い人はSNSでさらに精神状態が悪くなるリスクがある。10代の女子はSNSを使う子ほど満足感が低い。「SNSと常につながっていなければならない。常に“完璧な容姿”や“完璧な人生”の写真を見せられ自分と他人とを比較するのをやめられない」とSNSが一部の10代や大人の気分を落ち込ませ、孤独を感じさせ、自信を失わせている。
「自分たち」vs「あいつら」
人間の祖先は危険な世界で暮らしていた。飢餓、感染症、事故、猛獣、なかでも他の人間が危険だった。10歳までに半数が亡くなる世界では、同じ人間に対してとても残忍だった。発見される人骨の多くは左側の頭蓋骨が損傷している。これは右利きの人に殴られあと。狩猟採取民の10~15%は別の人間に殺されていた。原始的な農耕民の場合は5人に1人(20%)だ。きっと言い争いの種が増えたのだろう。これは仲間内での争いで部族間ではさらに多くなる。自分の部族を出て他のホモサピエンスを探しに行くのは死に向かっているようなものだった。人間は「自分たち」と「あいつら」に分類する。知らない相手に対する不安、特に見た目が異なる人に対して不安が湧く。恐怖を作動させる偏桃体は見覚えのない人に対してすぐ反応する。
7万年前の人類は東アフリカに10~20万人が暮らしていた。そのうちの3000人にも満たない人がアフリカ大陸を離れた。この3000人が現在アフリカ以外に暮らす人の祖先。人類は他種の動物よりも遺伝子が同じ。
99.9%の遺伝子が同じなのだ。見た目の違いは気候に起因している。世界各地の人たちの遺伝子的違いは皮相である。しかし、異なるものへの恐怖は消えていない。偏桃体は危険を感じると気をつけないより気を付けた方がいい「火災報知器の原則」の信号を送る。知らない人、特に見かけが異なる人には気をつけろと伝えてくる。多くの人は自分が思っている以上に偏見を持っている。それは、脳が即座に判断しているから。
過ぎ去った時代の名残が無意識のレベルで影響している。異なるもの「あいつら」への恐怖は血で染まった人類の歴史を考えると理に適っているが現代にはマッチしていない。
フェイクニュースが広まる理由。インターネット上では「自分たち」と「あいつら」かに分類しようとする傾向が強い。新聞やTVのニュースは精査され真実かの責任を編集局が持つが、Facebookの場合は「面白いか」「拡散されているか」のアルゴリズムで判断され内容が正確かは関係ない。人間が他の人間に殺されていた長い歴史から多くの人は「紛争」や「脅威」のニュースに強い関心を持つ。それは生死に関する情報だから。特にフェイクニュースはセンセーショナルの傾向が強いから早く拡散されやすい。
子どものスマホ依存
乳児の4人に1人はインターネットを使っている。2歳児の半数以上は毎日インターネットを使っている。7歳児のほとんどは毎日インターネットを使っている。
脳にはいくつもの領域があり同時進行している。目の前にポテトサラダがあれば「全部食べてしまえ」と「ダイエットのために控えよ」の指令がくる。衝動に歯止めをかけるのは「前頭葉」だがここは一番遅く発達する。25~30歳ぐらいでやっと完全に発達するのだ。10代では衝動を抑えることはわりかし難しい。
スマホは人間の報酬系の注目を集めるとてつもない力がある。未発達な脳がスマホをさらに魅惑的なものにする。結果、親に取り上げられて泣きわめく子供との言い争いが続くことになる。
ドーパミンは10年で1割減る。年をとるほど若い時ほどの興奮を感じなくなりリスクを冒さなくなる。ドーパミンの分泌が一番盛んなのは10代の頃。そのため興奮も反動も激しくなる。その時期は生きている実感や多幸感に酔いしれる。一方でフラれたときなどは途方もない悲観に暮れる。10代は衝動を抑制する能力が完全に成熟しきっていないため「激しい興奮を感じる」そして、若者は危険を冒すことができる。その一方で、若者は依存症になるリスクが高い。そのためアルコールやタバコが20歳になってからなのだが、スマホの依存性には誰も制限をしていない。
タブレット学習は幼児には向かない
タブレット端末が発達を助けるわけではない。むしろ子供が小さい場合は発達が遅れる可能性がある。「書く能力」は紙とペンで書くという運動能力が読む能力とも深くかかわっているが、タブレットやスマホではそれが難しい。幼い頃からスマホに触れるため「いまの子どもは即座に手に入るごほうびになれているから、すぐに上達しないとあきらめてしまう」そうだ。
それでも上位数%の子供はスマホがあっても学習できる。実際のところはスマホの影響ははっきりわかっていない。ただし、デジタル端末の依存性は甘いお菓子よりもコカインに近いと言われている。
運動はスマートな対抗策であり、最善の方法
多くの人がデジタルに溺れストレスを抱えているいま、抗うことができるのが「運動」である。少しの運動でも効果的で、1日5分でも効果はある。実際、小学生ではよく動いた子ほど集中力が高まった。運動により計画を立てたり注目する対象を変えたりする脳の実行能力も改善する。数回の散歩やランニングで集中力は改善し、継続的な運動で実行能力が改善する。
なぜ、集中力が高まるのか?
それは、私たちの祖先が良く身体を動かしていたから。狩りをしたり自分が追われたときは最大限の集中力が必要であり、ほんとうに一番必要な時に集中力が発揮できるように進化してきたためではないか。身体を動かし最大限の警戒もしてきた、そういう人が獲物を捕らえられ猛獣のランチにもならなかった。脳の大半はサバンナの時期から変わっていない。そのため、私たちは「身体を動かくすことで集中力が高まる」
運動がストレスを予防する
WHOによると現在10人に1人が不安障害を抱えている。よく運動する人はそれほど不安障害がいない。それは運動やトレーニングをすることで不安から身を守ることができるから。心拍数があがる運動ほど効果がでている。ストレスの大部分は「闘争か逃走か」であり、身体のコンディションがよければ、慌てて逃げるにしても攻撃するにしてもその場を切り抜けられる確率が高まる。身体を鍛えておけばストレスシステムを急激に作動する必要もない。身体をパニックギアに入れなくてもよい。身体のコンディションが良い人ほどストレス源に対処するもの得意になる。不安は脅威になりえるものに対して事前にストレスシステムを作動させることで起きる「火災報知器の原則」であるが、身体を動かす方がストレスや不安に強くなる。よい状態の人はあまりストレスシステムを作動させる必要がない。身体を動かすことでストレスへの耐性ができ集中力も高まるが、あらゆる種類の運動は身体に良い(散歩、ヨガ、ランニング、筋トレ)。一番良いのは6か月間に最低52時間運動する(週に2時間。週3日1回45分)心拍数は上げないより上げた方がいい。
近代技術への悲観的な見方
技術革新が起きるたびにハルマゲドンを予言する人が必ずいた。そこまではいかなくとも、悲観的な考えをする人はいた。
例えば
「鉄道酔い」…人間が時速30キロ超の速さで運ばれるのは不自然なことで気分が悪くなり嘔吐する。
「電話は悪の発明」…雷雨や邪悪な魂を引きよせる。
「テレビには催眠効果がある」
いまでは、こんなことを信じる人はいない。では、スマはどうか?
いままでの技術革新とスマホ、パソコンが違うのは時間。24時間持ち運んではいなかった。そして「デジタルライフの研究」はすすんでいない。様々な研究には時間がかかるが、それ以上に技術革新が先をいっている。そのため、スマホ依存症を疑い、スマホから遠ざかる価値がある。
そもそも、人間は幸せな生き物ではない
人間は自然に幸せな気分にはならない生き物であった。人間の歴史は長い間10歳まで生きられない子が半数だった。平均寿命は30歳で、感染症、飢餓、殺人、事故、猛獣で命を落としてきた。そんな世界で生き延びるためには心配性で警戒心が強いことが長所だった。祖先は死の恐怖で常に不安だったはず。生き残るためには、肉体が強靭で勇敢でストレスに強いだけでなく、事故や争いを避けられる能力も必要だった。不安や気分の落ち込みは生存の観点からは喜びや心の平安よりも大事なものだった。
「めぐまれているのに精神状態が悪い理由」は自然が人間が長く続く幸福感を埋め込む価値を見出さなかっために、引き続き行動に出れるように「もっと」「もっと」という欲求にが出てくるようになっている。そして、不安を感じ、危険を探し続ける。
が、元気になれるコツはある
・睡眠を優先
・身体をよく動かし
・社会的な関係をつくり
・適度なストレスに自分をさらし
・スマホの使用を制限すること
(※心の不調を予防すること)
不安や気分の落ち込みは自然なことであり、私たちが生き延びてくるために必要なことだった。デジタルの道具は賢く使わなければいけない。デメリットがあることも理解しとかなければいけない。
訳者からのコメント
「運動するだけでストレスに強くなり、記憶力や集中力がアップする」
この本を書いたのは、スウェーデンの精神科医の先生。生物科学や遺伝子学を研究している先生と比べると、そこんところちょっと視点が違うなーと思ってみたり。「ポピュラーサイエンス」ということで、わかりやすく、簡潔な本なので小難しいことはあまり書かれていない。その分、世界的なベストセラーいなっているんだろうなーと思う。