行動経済学は、私たちの日常の意思決定に潜む心理的な「クセ」や「偏り」に光を当て、それをうまく活用するための視点を提供してくれます。大竹文雄さんの『行動経済学の使い方』は、行動経済学の理論が私たちの生活や仕事、そして社会全体でどのように役立つかを具体例を通して教えてくれる一冊です。ここでは、本書で印象に残ったポイントを日常にどのように応用できるかを考えてみます。

「他の人も避難しています」という一言が、避難行動を促進させることができる。この考え方は、緊急時だけでなく日常生活や職場の行動にも応用できます。例えば、職場で新しいプロジェクトや取り組みを始める際、他の同僚が積極的に参加している姿を見せることで、周りの人たちも巻き込みやすくなるのです。このように、行動の「ナッジ効果」を意識することで、自然に周囲の行動を促進することができます。

本書で紹介されているウーバーのドライバーの事例では、1日の目標収入を達成すると、報酬が高くてもそれ以上働こうとしないことが示されています。このように「参照点」が行動に影響を与えることは、自分の目標設定にも役立ちます。例えば、健康を目指して運動を続けたいとき、「毎日30分の運動」を参照点にすることでモチベーションを維持しやすくなります。目標を達成することで満足感が得られ、無理なく行動を継続できるのです。

周囲に生産性の高い同僚がいると、自分の生産性も高まる「ピア効果」は、職場の環境づくりにおいてとても重要です。例えば、職場でのチーム作りや配置を工夫して生産性が高い人と一緒に仕事をする機会を増やせば、全体のパフォーマンスを引き上げることが期待できます。これは、私たちの行動が無意識のうちに周囲の影響を受けるためです。

「夏休みの宿題をギリギリにする人は、深夜残業しがち」というエピソードも興味深いものです。これは行動経済学でよく知られる「計画の実行」の重要性を教えてくれます。具体的な行動計画を立て、それを紙に書き出すことで、行動を起こしやすくするのです。例えば、週ごとの目標を作り、毎週それを見直すことにより、仕事でも個人の習慣づくりでも計画的に物事を進めやすくなります。

消費税の表示形式や税率の違いが消費行動に影響を与えることも、本書では触れられています。軽減税率や外税表示によって、通常の税率がアンカリング効果を生み、比較的安く感じさせることで消費意欲が引き出されるのです。このような仕組みを知っていると、日常の買い物で冷静に判断することができ、自分の支出をコントロールしやすくなります。

最後に、「残業は伝染する」というポイントも大切です。誰かが残業を始めると、他の人もそれを当たり前のように感じ、つい残業をしてしまう傾向があるのです。こうした「行動の伝染」を意識することで、職場の生産性や個人の生活のバランスを保つことができます。行動経済学を応用すれば、他者の影響に振り回されることなく、自分にとってベストな行動を意識的に選ぶことができるようになります。

『行動経済学の使い方』には、日々の意思決定や行動に潜む心理的な影響が具体的に紹介されています。行動経済学の知識を生活に取り入れることで、より合理的でポジティブな変化を起こしやすくなるでしょう。