今回ご紹介するのは、『富裕層は旅に何を求めているか』という本です。観光業が多様化する中で、ラグジュアリーツーリズム（高級観光）に焦点を当てたこの本は、富裕層が求める「体験」と、それが地域や環境に及ぼす影響について深く掘り下げています。

本書では、日本政府観光局（JNTO）の定義に基づき、1回の旅行で100万円以上を消費する旅行者を「富裕層旅行者」としています。市場調査によると、富裕層旅行者は旅行者全体の1%に過ぎないものの、その消費額は全体の13.1%を占めています。つまり、「少数精鋭」の富裕層旅行者が観光業に大きな経済効果をもたらしているのです。

富裕層が求めるのは「単なる観光」ではなく、特別で希少な「体験」です。例えば、アフリカのサファリロッジはその典型例で、宿泊するだけでも「免責同意書」が必要とされるほどの冒険的な体験が味わえます。また、プライベート感を重視したリゾートも増えています。

ラグジュアリーリゾートが注目される理由の一つに、環境と地域社会への配慮があります。野生動物が主役のアフリカのリゾートでは、環境負荷を軽減し、地域の生態系や経済を保護する取り組みが不可欠です。また、富裕層観光の消費が地元経済に還元されるよう、財団を通じた地域支援も行われていることが紹介されています。特にバックパッカーと違い、富裕層観光は地元の文化や自然を守る点でも大きな役割を果たしています。

本書の中で印象的だったのは、「遠い」「不便」といった条件も富裕層にとっては「冒険」として魅力となり得るという点です。長期滞在が可能な富裕層は、アクセスが難しい場所でも特別なプライベート空間を求め、その不便さも含めた「体験」を楽しむのです。この点が、一般観光とは一線を画すポイントとなっています。

ラグジュアリーツーリズムは、単なる「お金持ちの遊び場」ではなく、持続可能な観光を実現するための鍵ともいえる存在です。観光地や自然、地域社会を守りながら、その魅力を最大限に引き出すラグジュアリー旅行。『富裕層は旅に何を求めているか』は、そんな未来の観光業に対する洞察を与えてくれる一冊です。富裕層観光が地域や環境に与えるポジティブな影響を考えさせられる内容でした。

観光業の新たな可能性に興味のある方には、ぜひ手に取ってほしい一冊です。